日蓮宗の開祖である日蓮聖人が遺したお言葉(御遺文)は、心豊かに生きる知恵が詰まっています。
今回ご紹介するのは、『妙法尼御前御返事』の一節です。
御遺文 原文
人の寿命は無常なり。出づる気は入る気を待つことなし。風の前の露、なお譬にあらず。かしこきも、はかなきも、老いたるも、若きも定め無き習いなり。されば先ず臨終の事を習うて後に他事を習うべし。
・御遺文名『妙法尼御前御返事』
・弘安元年(1278年)
・日蓮聖人 57歳
御遺文 現代語訳
人の寿命は無常(※)である。
やがて吐く息ばかりになり、息を吸うことができなくなる。人の命の儚さは、風に吹かれる朝露よりも儚いものである。
賢い者も、愚かな者も、老人も、若者も、いつ生命を失うかわからない儚さが世の常である。
だから、人はまず死に対する心構えについて習い、その後に他の事を学ぶべきなのである。
※ 無常・・・この世界のものは、すべてが常に移り変わっており、少しも同じ状態に止まらないこと。転じて、死を意味する。
御遺文 解説
人の命ほど尊いものはないといわれます。しかし、誰しもいずれは生涯を終えるときがきます。
だからこそ、自分の人生の最期、臨終を迎えるということを真摯に受け止めなくてはなりません。
日蓮聖人が「先ず臨終の事を習うて後に他事を習うべし」といわれるのは、人生は無常であることを認識したうえで、死を迎えることを覚悟した生き方をするべきであると示しています。
死と隣り合わせの数多くの法難を経験した日蓮聖人だからこそ、臨終の大事を解決することが何にも勝る優先事項であると考えられたのです。
南無妙法蓮華経